研究について
現代の光科学は、物質の性質を調べるという従来の枠組みを超えて、光で新しい物質相を 創り、制御する、よりダイナミックな領域へと広がりつつあります。これは、基礎学理としては
多体系の非平衡物理現象に対する興味が高まり、更に応用的な観点からは、
超高速、大容量の光通信、光コンピューティングを目指す社会的要請(Society 5.0)に沿ったものです。(
光・量子飛躍フラッグシッププログラム)。
本研究グループでは、従来の半導体などを対象とした光機能の研究の枠を超え、高温超伝導体、量子スピン液体/マヨラナフェルミオン物質や、強相関ディラック半金属など、量子多体効果が生み出す「強相関電子」の世界を対象とします。極限的な赤外短パルス光(パルス幅~ 5 フェムト秒、フェムト秒=千兆分の一 (10-15) 秒)やアト秒(アト秒=百京分の一 (10-18) 秒)精度の干渉計など、世界最先端の光技術を駆使して、かつてない時間精度による測定を行います。電荷、軌道、スピン間の相互作用を数十アト秒~ピコ秒(ピコ秒=10-12 秒)のおよそ 5 桁に及ぶ時間軸ダイナミクス(エネルギー軸で 1 meV~数十 eV に対応)として解き明かし、次世代光機能のペタヘルツ(1015ヘルツ)動作を目指します。
1. 強相関電子系物質における光誘起相転移の探索
有機、銅酸化物超伝導体、ハニカム格子の量子スピン液体、スピン軌道相互作用の大きなイリジウム半金属、電子間相互作用による空間反転対称性の破れを示す電子強誘電体など、超高速光機能性が期待される物質を対象に、光誘起相転移(光による電子的、磁気的性質の巨視的な変化)の探索を行います。
2. 単一 (サブ) サイクル(~5 fs)位相制御光の発生と極限分光
短パルス化の極限には何が あるのか?光の電場振動一周期に満たない極限 光パルスを開発し、「光の超強電場が固体中の電子を非線形駆動する」世界を究極のアト秒時間精度でのぞきます。強相関電子系特有のフロケ(光と電子の強結合)状態や高次高調波発生を探索します。
3. 広帯域、高強度のTHzを用いた強相関電子系の電子状態の解明と制御
テラヘルツ(THz)領域のポンププローブ分光やテラヘルツ波発生イメージングによって、電子状態やドメイン構造を明らかにします。金属とは?絶縁体とは?低エネルギー電子状態 から物質の基本的な姿を明らかにします。また、可視~近赤外光に比べて、遥かに低エネルギーの高強度THz 光を励起光として量子多体物質の操作を行います。
図1. (a) 極短パルス光源と測定装置, (b) 光電場のキャリアエンベロープ位相制御, (c) 電子強誘電体における光ドメイン操作
図2. 量子多体物質における光強電場効果とアト秒光機能の開拓
助成金
本研究は、以下の助成を受けています。
- 科学技術振興機構CREST 「独創的原理に基づく革新的光科学技術の創成」 : 課題名「 キャリアエンベロープ位相制御による対称性の破れと光機能発現」(2019-2025)
- 文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」基礎基盤研究「強相関量子物質におけるアト秒光機能の開拓」(2018-2027)
- 科研費基盤研究B「電子型強誘電ドメイン構造の光・テラヘルツ強電場駆動」(2018-2020)
- 科研費若手研究B「位相制御サブサイクル近赤外パルスによる強相関電子系の磁性・誘電性制御」(2017-2019)
- 科研費挑戦的萌芽研究「赤外6 fs光とテラヘルツ光の二重励起による協奏的電子・フォノンハイブリッド操作 」(2016-2017)
- 科研費基盤研究A「5フェムト秒極超短赤外パルス光による強相関電子系の動的局在と秩序形成の研究」(2015-2018)
- 科研費基盤研究A「赤外10フェムト秒パルス列による強相関電子系の電子-フォノンコヒーレント制御」(2011-2014)
- 科研費若手研究B「テラヘルツ光による電荷秩序と誘電性の研究」(2011-2012)
- 科学技術振興機構CREST 「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」: 課題名「先端超短パルス光源による光誘起相転移現象の素過程の解明」(2008-2014)
- 新学術領域研究「分子自由度が拓く 新物質科学」(代表 鹿野田一司教授)(2008-2012)
- 科研費基盤研究B「テラヘルツ超高速分光法による光誘起伝導制御の研究」(2008-2010)
- 科研費基盤研究B「強相関電子系における光励起現象の位相緩和ダイナミクス」(2005-2007)
- 科学技術振興機構PRESTO「ナノと物性」: 課題名「強相関ナノ電子構造の光誘起協同現象による超高速スイッチング」(2002-2006)
- 村田学術振興財団(2018)
- 光科学技術研究振興財団(2013-2014)
- 池谷科学振興財団(2006)
- カシオ科学振興財団(2005)
- 大川情報通信基金(2005)